今日は乳酸2.0、明日は3.0──携帯型乳酸測定器が本当に示しているもの

2026年の系統的レビューでは、携帯型乳酸測定器と実験室の基準法との関連は r = 0.95〜0.99。それでいて、3 mmol/L 付近での1回の測定のばらつきは ±0.4 mmol/L。これが矛盾ではない理由を解説します。

今日は乳酸2.0、明日は3.0──携帯型乳酸測定器が本当に示しているもの

アマチュアのチャットで定期的に燃え上がる論争は、だいたいこんな形をしています。一方はこう言います──「心拍数はあてにならない。暑さ、寝不足、コーヒー一杯が多かっただけでゾーンがずれる。乳酸で練習すべきだ」。もう一方はこう返します──「乳酸だって、まったく同じ話だ」。

良い論争です。どちらの言い分にも一理あるからです。測定が何を語っているのかを見ていきましょう。

2026年の系統的レビューが示したこと

2026年3月、Sports Medicine — Open に、携帯型乳酸測定器の妥当性と信頼性に関する系統的レビューが掲載されました。COSMIN と GRADE の手法による形式的な質の評価を伴うものです。レビューには、Lactate Pro、Lactate Scout、Accutrend、Lactate Plus を扱った 25件の研究 が含まれました。

主要な結果は心強く響きます。実験室の基準法との相関は r = 0.95〜0.99、信頼性も高い。しかしその直後に、このレビューを読む価値そのものである但し書きが続きます。乳酸濃度の高い領域では系統的な偏りがしばしば見られる ため、著者らはプロトコルの標準化と較正を呼びかけています。

r = 0.99 と「±0.4 mmol/L」が矛盾しない理由

ここが肝心な点で、一段落を割く価値があります。

高い相関が意味するのは、機器が 方向を正しくとらえている ということです。血中乳酸が上がれば表示も上がり、下がれば下がる。1 から 10 mmol/L という広い範囲で曲線を描くには、これで十分です。点はきれいに並びます。

しかし相関は、一つひとつの具体的な数値が何を意味するのか については何も語りません。そして閾値トレーニングで扱うのは、まさにその一つの数値であり、0.2〜0.3 という差です。

この不確かさがどれほど大きいかを示したのが、2024年の European Journal of Applied Physiology の研究です。デザインは変わっています。よく鍛えられた35歳の自転車競技者1人、4種類の強度、480回の測定、乳酸の範囲は 0.88〜4.89 mmol/L。4台の携帯型機器を、据置型の Biosen C-Line と比較しました。

基準法に対する偏り:

  • Lactate Plus ── −7%
  • Lactate Pro ── +7%
  • Lactate Scout ── −10%
  • TaiDoc TD-4289 ── +42%

そして最も重要な数字が、3 mmol/L 付近での95%予測区間の幅です。Plus が ±0.36 mmol/L、Pro が ±0.40、Scout が ±0.44。比較のために挙げると、据置型の YSI は ±0.12 でした。

あとは単純な算数です。乳酸が 2.0 から 2.5 mmol/L へ上がる点を探しているなら、有用な信号は全部で 0.5 mmol/L。一方、1回の測定のノイズは約 0.4。同じ機種どうしでも、2台の間の一致限界は Plus と Scout で 1 mmol/L を超えていました。

著者らの結論は文字どおりこうです。乳酸は 道具箱の一つとして使うべきで、唯一の指標にしてはならない

機器そのもの以外に、数値を動かすもの

ここで、チャットの論争には決着がつきます。乳酸は、あなたのコンディションから独立した量では ありません。ただ、心拍数とは違うかたちで依存しているだけです。

穿刺する場所。 耳たぶと指の腹では、統計的に異なる値が出ます。些細な話ではありません。二つのテストの間に、それだけで 0.15 の差が生まれます。

グリコーゲンの蓄え。 低炭水化物の食事をしているときや、前日にきついトレーニングをした翌日は、同じパワーでも乳酸は低く出ます。基質が少なければ産生も少ない。嘘をついているのは機器ではなく、解釈のほうです。

脱水と暑さ。 血漿量と皮膚の血流が変わります。つまり、濃度も、指から絞り出すものも変わるということです。

採血のタイミング。 乳酸は筋から血中へ瞬時に移るわけではありません。走行区間のあとのピークは回復の最初の数分に訪れ、採血が30秒ずれるだけで数値は変わります。

指の清潔さ。 皮膚の汗には乳酸が含まれています。最初の一滴は拭き取る必要があります。これは儀式ではなく、実在する誤差を取り除く作業です。

どう使えばいいか

機器は役に立ちます。ただ、誤差の分かっている道具として扱うべきであって、最終的な真実として扱うべきではありません。

標準化できるものはすべて標準化する。 同じ1台の機器、同じ1箱の試験紙、同じ穿刺部位、穿刺する人も同じ、同じ時間帯、前日の食事も同じ。どれか一つでも変えれば、過去のテストとの比較可能性は失われます。

絶対値ではなく推移を比べる。 意味があるのは「8週間で曲線は右にずれたか」という問いであって、「自分は2.1で、隣の人は1.8」ではありません。

0.5 mmol/L 未満の変化はノイズとみなす。 二つのセッションの間で、同じパワーでの乳酸が 0.3 変わったのなら、おそらく何も測れていません。

4.0 mmol/L という固定の閾値は忘れる。 この万人共通のカットオフは、機器の誤差の大きさが明らかになる前から、すでに妥協の産物でした。個別に閾値を決める方法のほうが頑健で、体感・ペース・パワーに結びつけるやり方がいちばん頑健です。

心拍数とパワーを捨てない。 それぞれに固有の歪みを持つ3つのデータ源は、合わせて見たほうが、どれか一つだけよりも正直な像を与えてくれます。

限界について正直に

2024年の研究は 1人を対象 に行われました。再現性を評価するには見事なデザインです。個人間のばらつきを取り除き、純粋な機器のノイズが見えるからです。しかし、人が違えば、ヘマトクリットが違えば、指の温度が違えば機器が同じようにふるまうのかについては、何も教えてくれません。

2026年の系統的レビューは25件の研究を含めましたが、それらの研究自体がプロトコルの点でばらばらです。著者らはまさにそれを、この分野の最大の問題と呼んでいます。

要点

  • 2026年のレビュー(Sports Medicine — Open25件の研究、COSMIN + GRADE):携帯型乳酸測定器と基準法との相関は r = 0.95〜0.99。ただし 高濃度域での系統的な偏りはよくある
  • 2024年の研究、480回の測定:偏りは −7%(Plus)、+7%(Pro)、−10%(Scout)、+42%(TaiDoc)。
  • 3 mmol/L 付近での1回の測定のばらつきは ±0.36〜±0.44 mmol/L、据置型機器の ±0.12 に対して。
  • 同じ機種どうしでも、2台の間の一致限界は 1 mmol/L を超えていました。
  • 高い相関が示すのは、機器が 傾向 をとらえていることであって、一つの数値 が正しいことではありません。
  • 乳酸 グリコーゲン、脱水、暑さ、穿刺部位、採血のタイミングに左右されます──ただ、心拍数とは違うかたちで。
  • 実践:機器もプロトコルも一つに固定し、推移で評価する。0.5 mmol/L 未満の変化はノイズ。4.0 mmol/L という固定の閾値は当てになりません。

出典:Bruno J., Thapa R.K., Santos Â., Montoro-Bombú R., Sarmento H.、「Validity and Reliability of Portable Blood Lactate Analyzers: A Systematic Review with COSMIN and GRADE Assessment」、Sports Medicine — Open, 2026;12(1). https://doi.org/10.1186/s40798-026-00979-1. Mentzoni F., Skaugen M., Eythorsdottir I. et al.、「Precision and accuracy of four handheld blood lactate analyzers across low to high exercise intensities」、European Journal of Applied Physiology, 2024;124(12). https://doi.org/10.1007/s00421-024-05572-6