カルノシン:299人、1日2 gを12週間、126の比較で有意な結果は2つだけ
カルノシンは筋肉内で酸を緩衝するジペプチドで、ベータアラニンとともに「酸性化対策」のサプリとして売られています。現時点で最大のRCT(JISSN、2026)では、グループ全体で見ると7つのテストのどれでもプラセボとの差はありませんでした。効果が浮かび上がったのは2つのサブグループだけ。それが見た目より弱い根拠である理由と、カルノシンにはなくベータアラニンにある効果を解説します。

「カルノシン」で検索する人の多くが実際に探しているのは、胃の粘膜を守る薬として知られる亜鉛カルノシン(日本ではポラプレジンク)です。こちらは持久力とは関係ありません。ここで取り上げるのは別の製品、スポーツサプリメントとしてのL-カルノシンです。6月、それが持久力に与える影響を調べたランダム化試験としては現時点で最大の研究が発表されましたが、その結論は、データが許す以上に大きく聞こえます。
カルノシンとは、なぜ飲まれるのか
カルノシンはベータアラニンとヒスチジンからなるジペプチドです。骨格筋、心臓、脳に多く含まれます。スポーツでの主な役割は細胞内の緩衝剤。水素イオンと結びつき、高強度の運動中に筋肉が急速に「酸性化」するのを防ぎます。
サプリの理屈は単純です。筋肉のカルノシンが増えれば、高いパワーを長く維持できる。ただし、このまっすぐな道筋には障害があります。
カプセルのカルノシンが筋肉に届きにくい理由
ヒトの血液中では、カルノシンを分解する血清カルノシナーゼという酵素が働いています。de Jagerほか(Scientific Reports、2023)の実験では、血漿中のカルノシンの半減期は1.2分でした。Oppermannほか(IJMS、2021)によると、経口摂取後のカルノシンは血清中では検出されない一方、未変化体のまま最大5時間にわたって尿中に排泄されます。一部が赤血球の中に隠れているのかもしれません。
そのためスポーツ栄養学は、とうに回り道を選びました。カルノシンそのものではなく、その「律速因子」であるベータアラニンを摂り、筋肉に自らカルノシンを合成させるのです。国際スポーツ栄養学会(ISSN)の見解では、ベータアラニン4–6 g/日を少なくとも2–4週間摂ると筋肉のカルノシンが明らかに増え、パフォーマンスが向上します。効果がもっとも大きいのは1–4分間の運動です。詳しくはベータアラニンの解説を。
新しいRCTで何をしたか
ルイビル大学のTimothy O'Tooleほか(Journal of the International Society of Sports Nutrition、2026)は、NEAT試験の副次評価項目を解析しました。この試験はもともと、カルノシンが大気汚染から心臓と血管を守るかどうかを調べるためのものです。
- 299人を無作為化し、283人がベースラインのテストを完了。
- 平均年齢は約45歳、女性57%。活動レベルを問わず募集しており、アスリートではありません。
- カルノシン2 g/日(0.5 g × 2カプセルを1日2回)またはコーンスターチのプラセボを12週間。
- テストは6週後と12週後:握力と最大値の50%での保持時間、つま先立ち(カーフレイズ)を限界まで、その場での2分間ステップテスト、4 m歩行速度。
サプリはきちんと吸収されていました。赤血球中のカルノシンはおよそ2倍、尿中ではおよそ7倍に増えています。筋肉中のカルノシンは測定していません。
結果
グループ全体では、何も出ませんでした。 6週後にも12週後にも、7つの指標のどれひとつプラセボと差がありませんでした。年齢と性別で補正したモデルでも差は出ていません。
サブグループでは、2つのシグナル:
- 40歳未満の参加者では、6週後のつま先立ちの回数がプラセボ群より10.2%多くなった(95%信頼区間1.6–18.9%、p = 0.018)。
- 40歳を超える男性では、12週後のステップテストの歩数が7.4%多くなった(95%信頼区間1.6–13.2%、p = 0.01)。
著者らの結論は「カルノシンは筋持久力と心肺持久力を改善し、その効果は男性に限られる」。データがこの言い方に耐えられるか、見てみましょう。
まだ信じるのは早い理由
比較が多ければ、偶然の発見は避けられない。 9つのグループ(全体、男性、女性、40歳未満と以上、その組み合わせ)× 7つのテスト × 2回の測定で、多重性の補正なしに126の比較。p < 0.05の基準なら、偶然だけで約6つが「有意」になるはずです。見つかったのは2つでした。
シグナルが時間とともに持続しない。 若い参加者のつま先立ちの増加は6週後にはありましたが、12週目にはこのサブグループで有意な効果は報告されていません。その時点で、血中のカルノシンはとっくにプラトーに達していたにもかかわらずです。
ITT解析ではなく、プロトコル遵守者での解析。 カルノシン群からは、カプセルを飲み忘れた人だけでなく、尿中カルノシンの上昇が10%未満だった「ノンレスポンダー」も除外されました。プラセボ群ではこうした選別はできません。脱落はカルノシン群38%、プラセボ群26%。結果を動かしうる非対称性です。
テストがスポーツ向けではない。 ステップテストやつま先立ちは、一般集団向けの臨床的な検査です。タイムトライアルも、VO₂maxも、乳酸値もありません。
一方で、この研究には強みもあります。サプリの研究としては本当に大きなサンプルで、資金は公的(NIH)、利益相反もありません。そして主要な結果、つまりゼロという結果には情報価値があります。カルノシン2 g/日を12週間摂っても、一般の成人の機能的持久力は変わらないということです。
どう活かすか
- 1–4分間の運動で筋肉の緩衝能力がほしいなら、使えるツールはカルノシンではなくベータアラニンです。用量と効果が明らかで、届く仕組みもわかっています。
- マラソンやロングのトライアスロンでは、緩衝系のサプリはほとんど役に立ちません。そこで限界を決めるのは酸性化ではなく、燃料と体温調節です。
- カルノシンがすでに棚にあるなら、2 gで害を心配する必要はありません。Aliほか(Nutrients、2025)の安全性試験では、単回10 gまでの摂取で忍容性は良好でした。ただし、スピードの向上も期待しないでください。
- 亜鉛カルノシンと混同しない。 これは胃の薬で、持久力については研究されていません。
- 筋持久力は体感ではなくテストで確かめる。 どんなサプリを試すにしても、摂取期間の前後で同じ筋力テストを比べましょう。
要点
- カルノシンは血液中の酵素ですばやく分解される(血漿中の半減期は約1.2分)。そのためスポーツでの標準は、筋肉が自らカルノシンを合成する材料になるベータアラニン。
- 2026年のRCT:299人、2 g/日、12週間。グループ全体では7つのテストでプラセボとの差はひとつもなし。
- サブグループでの2つの肯定的な結果(40歳未満でつま先立ち+10.2%、40歳を超える男性でステップテスト+7.4%)は、126の比較の中から、多重性の補正なしで、しかも非対称な脱落のもとで得られたもの。
- 持久力のためにカルノシンを買う根拠はありません。ベータアラニンが意味を持つのは1–4分間の運動に限られます。
出典: O'Toole T.E., Wingard C.J., Bariess S.K., Crandell C.E., Amraotkar A.R., Gao H., Bhatnagar A.「Effects of carnosine supplementation on physical endurance: a placebo-controlled randomized clinical trial」. Journal of the International Society of Sports Nutrition, 2026;23(1):2679716. DOI: 10.1080/15502783.2026.2679716 · de Jager S., Vermeulen A., De Baere S. et al.「Acute balenine supplementation in humans as a natural carnosinase-resistant alternative to carnosine」. Scientific Reports, 2023;13:6484. DOI: 10.1038/s41598-023-33300-1 · Oppermann H., Elsel S., Birkemeyer C., Meixensberger J., Gaunitz F.「Erythrocytes Prevent Degradation of Carnosine by Human Serum Carnosinase」. International Journal of Molecular Sciences, 2021;22(23):12802. DOI: 10.3390/ijms222312802 · Trexler E.T., Smith-Ryan A.E., Stout J.R. et al.「International society of sports nutrition position stand: Beta-Alanine」. Journal of the International Society of Sports Nutrition, 2015;12:30. DOI: 10.1186/s12970-015-0090-y · Ali A.N., Su L., Newton J. et al.「Dietary Carnosine Supplementation in Healthy Human Volunteers: A Safety, Tolerability, Plasma and Brain Concentration Study」. Nutrients, 2025;17:2130. DOI: 10.3390/nu17132130