ゾーン2:「180マイナス年齢」がウソをつく理由と、自分の楽なペースの見つけ方
ゾーン2とは時計上の数字ではなく、第一閾値より下で行う運動のこと。心拍数の公式がなぜ外れるのか、そして市民ランナーに本当に必要な楽なランはどれだけかを読み解きます。
「ただゆっくり走ればいい」——ゾーン2はたいていこう説明される。単純に聞こえるが、いざ蓋を開けてみると、ある市民ランナーは自分の「ゾーン2」を必要より明らかに速く走り、別の人は遅く走り、そもそもゾーン2が正確にどこを通るのかという論争は何年も収まらない。2025年、いくつもの研究が同時に示したのは、原因は怠けでも意志の弱さでもないということ。原因は、私たちが信頼し慣れてきた公式にある。
ゾーン2とは本当は何か
2025年、14人のスポーツ科学者と現場のコーチからなるパネルが、International Journal of Sports Physiology and Performance にコンセンサスを発表した。結論はこうだ。ゾーン2は第一乳酸性閾値または換気性閾値(LT1/VT1)のすぐ下の強度で行うのが望ましい。
実際にはどういう意味か。この閾値より下では、体はエネルギーの大部分を依然として脂肪でまかない、血中乳酸は低く安定したままになる(おおよその目安として < 2 mmol/l ほど)。これがまさに「会話できる」ペースだ。負荷はあるが、一定でラクに感じられる。
何のためか。専門家がゾーン2に期待するのは、末梢と中枢の両方にわたる幅広い適応だ。ミトコンドリアの数と質の増加、毛細血管網の発達、有酸素の土台の強化。進歩は間接的に確認できる。時間が経つと、同じ出力でも乳酸は下がり、いつもの負荷での心拍数と主観的なきつさ(RPE)が下がる。「粘り」も伸びる——長い運動の終盤で出力を保つ力だ。
心拍数の公式がウソをつく理由
人気の公式——「180マイナス年齢」(MAF法)や「(220 − 年齢)の60–70%」——は、たった一つの前提に立っている。第一閾値は誰でも心拍数の同じ割合にある、という前提だ。だが、そうではない。
Meixnerらの研究(Translational Sports Medicine、2025)は、経験豊富なサイクリスト50人を調べ、ゾーン2を決めるさまざまな方法を比較した。人による散らばりは非常に大きかった。ゾーン2の指標の変動係数は6%から29%。変動が最も小さかった心拍数の割合(およそ6–7%)でさえ当てにならない。心拍数のわずか5%の差は約1分あたり10拍にあたり、それだけでまったく別のゾーンへ行ってしまうのに十分だ。固定した乳酸値での出力では、散らばりは29%にも達した。
著者の結論は率直だ。最大心拍数の固定した割合は実際の代謝をうまく反映せず、VT1やFatMaxに基づく個人ごとの目安のほうが正確だ。さらに、公式で出した「最大心拍数」自体も、特定の個人では本当の値と十数拍から二十拍ほどずれることがある——そうなると、時計に出るきれいな数字は宝くじも同然だ。
ラボなしで自分のゾーン2を見つける方法:
- トークテスト。 完全な文で話せるなら、ゾーンの中だ。言葉を飲み込み始めたり、歌うのがつらくなったら——ペースを落とそう。
- 「鼻で呼吸できる」。 大ざっぱだが使える目安。鼻だけで呼吸しながら走れるなら、ほぼ確実に閾値より下にいる。
- きつさの感覚。 10段階でおよそ2–3。「何時間でもこのまま行けそう」と思えたら良いサインだ。
- 心拍数は法律ではなくヒント。 公式は出発点として使い、トークテストで確かめ直そう。おしゃべりがつらいなら——たとえ心拍数が「ゾーン内」でも、スピードを落とすこと。
あなたにちょうど必要なゾーン2の量
ここから両極化した80/20モデルが出てくる。時間の約80%を楽に、約20%をきつく。週15–25時間をこなすエリートには、これは見事に機能する。量が膨大で、その大半はどうしても楽でなければならない。そうでないと回復できないからだ。
ただ正直に言おう。あなたの予算が週3–5時間なら、やみくもに80%を楽に注ぐのが常に最適とはかぎらない。量が少ないと全体のトレーニング刺激はそもそも小さく、それをほぼ丸ごとゾーン2に渡すと、強度が足りなくなる。理にかなっているのは、週に質の高い練習を1本(インターバルかテンポ)残し、あとは本当に楽に保つことだ。量が増えるほど(目安として > 週8時間)、楽の割合は大きくなり、「古典的な」80/20に近づく。
よくある失敗が**「グレーゾーン」**だ。いつもゾーン2より少しだけ速く走ってしまう。きつくもないが、楽でもない。結果として、楽な練習は土台づくりや回復には楽さが足りず、きつい練習は鋭い刺激を与えるにはきつさが足りない。帯に短したすきに長し。
限界
- どんな公式も出発点であって真実ではない。ゴールドスタンダードは乳酸テストやガス分析だが、日常レベルではトークテストがその代わりになる。
- 個人差は現実だ。あなたの閾値は、同い年の隣人と同じ場所にあるとはかぎらない。
- Meixnerのデータはサイクリストで得られたもの。ランナーでは同じ負荷でも心拍数はふつう高く、ゾーンはそのまま一対一では移せない。
- 「脂肪燃焼ゾーン」は魔法のように痩せる話ではない。たしかにゾーン2では燃料としての脂肪の割合が最大になるが、体重が減るのは一つのペースではなく、全体のエネルギー消費と食事によってだ。
まとめ
- ゾーン2は第一閾値(LT1/VT1)より下、「会話できる」ペースであって、時計上の具体的な数字ではない。
- 心拍数の公式はウソをつく。 指標の人による散らばりは6%から29%、心拍数の5%はもう約10拍/分だ。
- ゾーンは感覚で決める。 トークテスト、鼻呼吸、RPE 2–3/10。心拍数はあくまで但し書き付きの目安として。
- 予算が決め手。 週3–5時間ならエリートの80/20をまねしない——質の高い練習を1本残し、あとは本当に楽にやる。
- 「グレーゾーン」を避ける——あの永遠の「楽より少しだけ速い」を。楽は楽であるべきだ。
出典:Sitko S., Artetxe X. ほか「What Is Zone 2 Training?: Experts' Viewpoint on Definition, Training Methods, and Expected Adaptations」. International Journal of Sports Physiology and Performance, 2025;20(11):1614. https://doi.org/10.1123/ijspp.2024-0303 — Meixner B., Filipas L., Holmberg H.-C., Sperlich B.「Zone 2 Intensity: A Critical Comparison of Individual Variability in Different Submaximal Exercise Intensity Boundaries」. Translational Sports Medicine, 2025. https://doi.org/10.1155/tsm2/2008291