暑熱順化は5日では足りなかった:9日目までに何が変わったか
人が耐えられる暑さの臨界限界が上がったのは、順化を9日続けたあとだった。5日ではまったく動かない。もう一つの結論は、順化ブロックとレースの間には間隔が必要だということ。

「暑いレースの1週間前からサウナに通うか、1枚多く着て走れ」というアドバイスは、記事から記事へと渡り歩いている。とくによく出てくるのが「5日」という数字だ。便利で、導入文に収まりがよく、計画を壊さずに済む。これから紹介する研究は、この期間を厳しめの基準で検証した。そして5日は、その基準を通過しなかった。
先に日付について断っておく。この研究はJournal of Applied Physiologyに2025年5月に出たものだ。これまで取り上げていなかったが、結論が実用的でしかも都合が悪いので、ここで取り返しておく。
何を測ったのか
暑熱順化の研究の多くは、おなじみの指標を見る。標準負荷での心拍数、血漿量、発汗開始の閾値といったものだ。ここではもっと厳しい指標が採られた。WBGT指数による臨界温度である。
WBGT指数(湿球黒球温度)は、気温・湿度・輻射熱を一つの数値にまとめたものだ。そして「臨界」水準とは、体が対応しきれなくなる点を指す。放熱が産熱を賄えなくなり、体温が止まらずに上がり始めるところだ。要するに「暑いが耐えられる」と「ここから先は悪化するだけ」の境界である。
見られたのはまさにこの境界だった。順化のあとで、それが上に動くかどうか。
どう行ったか
事前の順化がない28名。順化群15名、対照群13名。
プロトコルは暑熱・多湿環境での制御下の高体温誘導。35 °C・相対湿度65%。各セッションで深部体温をおよそ38.5 °Cまで上げ、それを60分維持する。ブロックの長さは5〜9日。
暑熱負荷を漸増させるテストは4回実施された。開始前、5日後、9日後、そして終了から4〜8日後である。
最後のポイントがいちばん面白く、この種のプロトコルでは通常設けられない。
結果
WBGTによる臨界温度は、9日後に上昇した。5日後には上昇しなかった。
言い方は単純だが、帰結は具合が悪い。プロトコルの半分は、結果の半分をもたらさなかった。この指標に関しては、何ももたらさなかったのだ。
第二の結果は直腸温の上昇速度――その後の暑熱曝露で体がどれだけ速く温まるか――に関わる。これはブロック直後ではなく、9日間のプロトコルのあとに回復期間が続いたあとに低下した。著者らは、この効果が現れるには順化終了後の間隔が必要だと結論している。
それでも他の記事で「5日」が効くとされる理由
ここに矛盾はない。従来の文献がまるごと否定されたように見えないよう、はっきり言っておく価値がある。
暑熱への適応は、それぞれ違う速さで展開する。血漿量の拡大は速く、3〜5日目にはもう目に見える変化が出る。標準負荷での心拍数の低下と発汗開始の早期化も、早いうちに現れる。「5日で十分」という推奨は、まさにこれらの指標の上に組み立てられている。
一方、耐性の臨界限界の移動は、そもそも放熱が限界すれすれの条件で働けるかどうかという話だ。この適応はもっとゆっくり積み上がる。さらに別系統の研究として、順化が進んだときの体温調節の再編は、代償可能な条件ではなく代償不可能な条件でこそ主に現れる、というものもある。つまり本当に暑いところでこそ、ということだ。
平たく言えば、5日は中程度の暑さをあなたにとって楽にする。9日は、危険になる境界そのものを動かす。
どうすればよいか
- 本当に暑くて湿度の高いレースなら、ブロックは9日以上で計画する。 単に「暖かい天候」なだけなら話は別だ。
- ブロックとレースの間に間隔を残す。 このデータでは、加温速度の低下は4〜8日の回復期間のあとに現れた。レース前日に順化を終えるのは、二重の意味で悪手だ。効果が現れる時間がなく、しかも疲れた状態で現地に着くことになる。
- 5日はゼロではない。 それ以上の時間がないなら、短いブロックでも血漿量と心拍の変化は得られる。ただ、それが耐性の天井を上げてくれるとは当てにしないこと。
- 研究のプロトコルはきつい。 深部体温38.5 °Cで1時間というのは体への重い負荷であり、研究では管理下で行われている。ここでの自己流は場違いだ。とくに心臓に問題がある場合は。
- 順化はほかの手段を不要にしない。 水分補給、スタート前のプレクーリング、コース上での被水は、適応の代わりではなく、その上に積み上がって働く。
要点
- 測定されたのはWBGTによる臨界温度 ― 放熱が産熱を賄えなくなる境界である。
- 参加者28名、うち15名が順化群。35 °C・湿度65%での制御下高体温、深部体温およそ38.5 °Cを1セッション60分。
- 臨界限界は9日後に上昇し、5日後には変化しなかった。
- 直腸温の上昇速度が低下したのは、9日間のブロックに続く回復期間のあとだけだった。
- 5日という従来の推奨が否定されたわけではない。速い適応(血漿量、心拍数、発汗)は早く現れる。ゆっくり積み上がるのは、まさに耐性の天井の移動である。
- 実践:9日以上のブロックに4〜8日の間隔を足してレースへ。ぎりぎりまで順化を続けるのは避ける。
出典:「The effect of heat acclimation on critical environmental limits and rate of rectal temperature change」, Journal of Applied Physiology, 2025年5月. https://doi.org/10.1152/japplphysiol.01004.2024, https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40192265/. 「Thermoregulatory adaptations with progressive heat acclimation are predominantly evident in uncompensable, but not compensable, conditions」, Journal of Applied Physiology. https://journals.physiology.org/doi/full/10.1152/japplphysiol.00220.2019