用語集

VO2maxやVLamaxから低ナトリウム血症、ケイデンスまで——本書の重要用語すべてをやさしい説明つきで。

本書では多くの専門用語を使いました。ここでは主要な概念を、やさしい説明とともにまとめます。

生理学的指標

VO2max(最大酸素摂取量)。 体重1 kgあたり、1分間に体が利用できる酸素の最大量(ミリリットル)。単位はml/kg/min。「エンジンの排気量」を示す指標です。高いほど有酸素性のポテンシャルが大きくなります。市民ランナーの平均値は男性で45〜55、女性で40〜50。エリート選手は70〜85以上。自分のレベルはVO₂max計算ツールで評価できます。

VLamax。 解糖系が最大限に働いたときの乳酸生成速度。炭水化物をどれだけ速く燃やすかを示します。単位はmmol/(L×s)。ウルトラマラソンランナーには低い値(0.2〜0.4)が望ましく、スプリンターは高い値(0.6〜1.0以上)になります。詳しくはVLamax計算ツールで。

FatMax。 体が1分あたりに燃やす脂肪の量が最大になる強度域(通常は心拍数またはVO2maxの%で表されます)。ウルトラ距離のための鍵となる指標です。通常は最大心拍数の60〜70%の範囲にあります。

LT1(有酸素性閾値)。 乳酸がわずかに溜まり始めるものの、体が完全に処理しきれるポイント。純粋な有酸素運動の上限のマーカーです。通常は最大心拍数の約70〜75%、または血中乳酸2 mmol/L。

LT2(無酸素性閾値)。 これを超えると、乳酸の蓄積が処理を上回るポイント。長時間(30〜60分)維持できる最大強度です。通常は最大心拍数の約82〜89%、または乳酸4 mmol/L。10 kmレースやハーフマラソンのペースです。自分のLT1/LT2は乳酸閾値計算ツールで判定できます。

RER(Respiratory Exchange Ratio、呼吸交換比)。 呼気中のCO₂と摂取O₂の比率。どの「燃料」を燃やしているかを示します:

  • RER 〜0.7 → 純粋な脂肪の酸化;
  • RER 〜0.85 → 脂肪と炭水化物の混合;
  • RER 〜1.0 → 純粋な炭水化物の酸化;
  • RER >1.0 → 無酸素性の運動。

ランニングエコノミー(Running Economy)。 一定の速度で走るために必要な酸素(またはエネルギー)の量。車の「100 kmあたりの燃費」に相当します。消費が少ないほど、エコノミーは優れています。

トレーニングゾーン

Zone 0(リカバリー)。 最大心拍数の50〜60%。アクティブリカバリー:軽い散歩、ヨガ、ストレッチ。

Zone 1(有酸素ベース/FatMax)。 最大心拍数の60〜70%。脂肪燃焼が最大になるゾーン。ウルトラマラソンランナーのトレーニングの基盤です(時間の70〜80%)。

Zone 2(エクステンシブ持久力)。 最大心拍数の70〜75%。ロングのテンポ走、マラソンのベース。

Zone 3(インテンシブ持久力)。 最大心拍数の75〜82%。ハーフマラソン/マラソンのペース。

Zone 4(無酸素性閾値)。 最大心拍数の82〜89%。閾値トレーニング、10 kmレースのペース。

Zone 5(VO2max)。 最大心拍数の89〜100%。最大強度、短いインターバル。

回復とモニタリング

HRV(Heart Rate Variability、心拍変動)。 心拍と心拍の間隔がどれだけ揺らいでいるかを示す指標。自律神経系の状態を反映します。HRVが高い=回復が良好で、負荷への準備ができている。HRVが低い=回復不足、ストレス状態。

RPE(Rate of Perceived Exertion、主観的運動強度)。 トレーニングのキツさを1〜10のスケールで主観的に評価するもの:

  • 1〜2:とても楽;
  • 3〜4:楽、おしゃべりできる;
  • 5〜6:中程度、短いフレーズでの会話;
  • 7〜8:キツい、話すのが難しい;
  • 9〜10:最大、話すのは不可能。

RED-S(Relative Energy Deficiency in Sport、相対的エネルギー不足症候群)。 摂取カロリーを大幅に上回るカロリーを消費している状態。ホルモン異常、骨量減少、免疫低下、女性では月経周期の乱れにつながります。

栄養と水分補給

カーボローディング(Carb loading)。 グリコーゲン貯蔵を最大限に満たすため、レースの2〜3日前から炭水化物の摂取を増やす戦略。目標:体重1 kgあたり1日8〜10 gの炭水化物。

グリコーゲン。 筋肉と肝臓に貯蔵される炭水化物の形態。平均的な人の総貯蔵量は約400〜500 g(2000 kcal)。高強度の運動なら1.5〜2時間分です。

アイソトニック(スポーツドリンク)。 塩分と糖分の濃度が血漿に近いスポーツ飲料。水分と電解質の素早い吸収を可能にします。

電解質。 筋肉と神経系の働きに必要なミネラル塩。主なものはナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム。ウルトラマラソンではナトリウム(水分1リットルあたり約1 g)が決定的に重要です。

低ナトリウム血症。 血中ナトリウム濃度の危険な低下(<135 mmol/L)。塩分なしで水を過剰に飲むと起こります。症状:頭痛、吐き気、意識の混濁。脳浮腫に至ることもあります。

トレイルランニング

VAM(Vertical Ascent Meters per hour)。 1時間あたりの獲得標高(m)で表す垂直方向の登坂速度。「山の」仕上がりの指標です。市民ランナーの良いレベルは600〜800 m/時、エリートは1200〜1500 m/時以上。

ケイデンス。 1分あたりの歩数。ケイデンスは身長、速度、フォームによって個人差があります。よく言われる170〜180歩/分は広く使われる目安であって、万人共通の基準ではありません。下りではケイデンスは通常上がります。

ペーシング。 距離全体への力の配分。「ギクシャクした」走りではなく、イーブンなペース(または心拍数)を保つ戦略です。

筋線維のタイプ

酸化系線維(遅筋、タイプI)。 脂肪で働き、疲労に強く、ミトコンドリアを多く含む筋線維。ウルトラマラソンに理想的です。色は赤(ミオグロビンが多い)。

解糖系線維(速筋、タイプII)。 炭水化物で働き、パワフルだが疲れやすい筋線維。スプリントや筋力系の種目で使われます。色は白。

代謝

解糖(グリコリシス)。 炭水化物(グルコース、グリコーゲン)を分解してエネルギー(ATP)と乳酸を生み出すプロセス。酸素あり(有酸素性)でも、なし(無酸素性)でも進行します。

脂肪の酸化(リポリシス)。 脂肪を分解してエネルギーを生み出すプロセス。多くの酸素を必要としますが、膨大な量のATPを生みます。ウルトラマラソンの主要なエネルギー源です。

ミトコンドリア。 細胞の「発電所」。酸素を使って脂肪と炭水化物からATP(エネルギー)を作ります。ミトコンドリアが多く大きいほど、アスリートの持久力は高くなります。低強度の長時間トレーニングに応えて成長します。